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今まで普通に開けていた扉。
しかし、いつからかこの扉が重たく感じるようになって来た。こうなるようになった理由は分かっている。
この扉の先は、私が所属している『文化研究サークル』がある。構成メンバーは、四年生が二人、三年生が私含めて三人、二年生が一人、一年生が一人だ。このサークルに所属するようになってから二年が経過していて、人間関係も良好な方だと思う。
なのに、このサークルに対して、今更足を重くする理由がある。
それは――、
「羽須美先輩、扉の前でボーっとしてどうしたんすか? 部屋入りましょうよ」
「あ、ごめんね」
サークルの一つ後輩である雄一郎に声を掛けられて、私は我に返った。先に部屋に入った沙穂の後について行く。
「羽須美、雄一郎、お疲れ様」
私と雄一郎が部屋に入るや、サークルメンバーが明るく迎えてくれる。私も「お疲れ」と返事する。このサークルに入って一年が経った雄一郎は、もう我が家に帰って来たように慣れた手つきで冷蔵庫から自前のペットボトルを出す。
「今日のサークル活動はどうするんすか?」
飲み物を一口呷った雄一郎が、私や他のサークルメンバーを見て問いかける。
同い年の沙穂と秀馬と目が合った。一応、四年生は二人いるのだが、この文化研究サークルでは基本的に最後の年はあまり活動に関わらないようになっている。だから、実質的な決定権を持つのは、私たち三年生になる。
文化研究サークルの活動内容は、地域や国に焦点を当てて、その文化や歴史を調べるというものだ。
普段なら、どこの文化を調べるか話し合うのだが、「……そうね」と私の言葉の歯切れは悪かった。他の二人も、「うーん」と頭を悩ませている。
「お疲れ様でーすっ」
文化研究サークルの空気を壊すように、軽快に扉が開かれる。扉を開けたのは、今年唯一の新入生である基山風花だった。
「すみませぇん、遅くなってぇ。今、何してるところなんですかぁ?」
風花は人の懐に入るのが好きなのか、甘えたような声音で話しかける。
「今日の活動をどうしようか話してたの」
「風花ちゃんは何かやりたいことある?」
沙穂と秀馬がそれぞれ風花に話しかける。風花は顎に指を当てて考える素振りをする。そして、「あっ」と手を合わせた。
「私、京都とか奈良に旅行してみたいですぅ」
思わず、「え?」と私の口から小さく声が漏れる。
「京都とか奈良に行けば、歴史についても触れられますよねぇ。私、奈良に行ったら鹿に会いたかったんですよぉ」
風花はそれがまるで名案とばかりに言っている。しかし、風花の意見は、サークルの趣旨と百八十度違っている。
私は「あのね、風花」と訂正しようと声を掛けるも、
「めっちゃ良いね、それ」
「私もちょうど行きたかったところなの」
二人は風花の意見を肯定した。
「えへへ、ありがとうございますぅ。みんなで旅行に行けるの、すごく楽しみですぅ」
風花は嬉しそうにしながら、早速スマホを開いて京都や奈良について検索している。そのスマホの画面を、沙穂と秀馬が覗き込みながら、一緒に話を進めていく。
雄一郎は興味なさそうに窓の外を見ているけれど、当日になったら、ちゃんと参加するはずだ。この一年間、自分の意見を言うことは少なかったけど、しっかりとサークル活動に臨む雄一郎の姿を見たら、間違いなく断言できる。
だから、この空間でサークル活動に乗り気になれないのは、私だけだ。
これが私が文化研究サークルの扉を重く感じるようになった理由だ。
今このサークルは、入部したばかりの基山風花を中心にして動いている。
<――②へ続く>

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