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俺にとって秘密基地とは、これまでの人生すべてだ。
この秘密基地を靖にぃに託されてから、俺の全てが変わった。
友達が出来るようになったし、自分の意見も伝えられるようになったし、何よりアクティブになった。
これも秘密基地のおかげだ。
土砂崩れが起こって秘密基地の形を保つことすら危うくなったからといって、すぐに捨てるという選択肢には至らない。
俺を助けてくれようと手を伸ばしてくれる靖にぃの手を掴まず、俺は秘密基地の中に留まり続けていた。
靖にぃは真っ直ぐに俺のことを不思議そうに真っ直ぐ見つめていた。
当然の反応だと思う。
わざわざ助けに来てくれたのに、俺はその手を拒んで秘密基地の中に留まっているのだ。俺が逆の立場でも、自分のことをなんて我が儘な子供だと思うだろう。
しかし、靖にぃは、
「変わったな、泰喜」
今の状況には適さないほど、ふっと柔らかな笑みを浮かべてそう言った。
「秘密基地を託すまでは物静かで自分の意見も言えないような子だったのに、今じゃ考えられないくらいだ」
まさかここで褒められるとは思わなかった俺は、「……そうだよ」と肯定することにした。
「俺は靖にぃ秘密基地を譲ってもらってから変わった。秘密基地のおかげで自信が持てるようになった。ここには、たくさんの想い出があるんだ。だから、この秘密基地を失いたくない。もし失ったら……」
俺は左腕を右手で掴みながら、震える声で言う。
「俺はまた昔の自分に戻っちゃう」
そう。これが俺が秘密基地を離れられない理由だ。
この秘密基地が俺のプライドになったと同時、秘密基地に自分自身の価値を置くようになった。
秘密基地があるから俺はみんなに好かれているし、秘密基地があるから今の俺がある。
もし、秘密基地がなくなったら、誰からも注目されないような自信のない子供に戻ってしまう。
俺はそれが怖い。
こんなちっぽけな理由で、俺は秘密基地を離れられず、死んでもいいとさえ思ってしまう。
「それは違う」
靖にぃの声に、俺は顔を上げた。
「確かに泰喜が変わったのは、秘密基地のおかげかもしれない。けど、それはただのキッカケに過ぎないんだ。泰喜が変化させたものは、秘密基地がなくなったとしても絶対に消えない」
「本当に?」
俺は縋るように問いかける。
「ああ、本当だ。むしろ、秘密基地から抜け出すことで、泰喜はまた新しい自分になることが出来るんだ。俺も秘密基地を抜け出して、社会に出たら、また変化することが出来た。今話すには時間が足りなすぎるから、ここでは言わないけどさ」
片目を瞑る靖にぃは、どこか子供のように茶目っ気が溢れていた。
靖にぃの言うことは信じられるかもしれない。そう思うのに、俺はまだ秘密基地から抜け出すことが出来ない。
頭では分かってるのに、それでもまだ――、
「――それでもまだ怖いって言うならさ」
まるで俺の頭の中を読み取ったかのように、靖にぃが話しながら、一歩俺の方に歩み寄り、
「一緒に進もう」
更に手を伸ばしてくれた。
俺はギュッと唇を結ぶと、恐る恐る靖にぃに向かって手を伸ばした。その手を、靖にぃが力強く掴み、引っ張ってくれる。その勢いに乗って、あれほど迷っていたのが嘘のように容易く秘密基地から抜け出した。
木漏れ日が降り注ぐ山の中は、いつもと同じ景色だ。
けれど、どうしてだろう。
今の俺にはまるで違う世界に見えた。
「泰喜はまだ何にでもなれる年なんだ。一つのものに縛られて可能性を潰すなんて早すぎるぞ」
俺は何も言わず、靖にぃの手を更に強く握った。そして、そのまま靖にぃの手に引かれながら、振り返ることなく二人で山を後にした。
<――終わり>

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