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――止まない雨はない。
よく佳境な状況の最中にいる時に言われる言葉だ。諦めることなく、頑張り続けていれば、いつか逆境も乗り越えているようになっているという意味合いになって、励ましの言葉として使われることが多い。
だから、今の文化研究サークルで感じているモヤモヤも、ずっと続くわけではない。
「気にし過ぎよ、羽須美」
自分に言い聞かせるように呟いた。しかし、それで魔法のように切り替わったら、人に悩みなんて存在しない。
私の考えは、文化研究サークルによってグルグルと渦巻いている。
今年の三月まではサークルに対してモヤモヤなんて感じなかった。むしろ、サークルのみんなで色々な地域の文化を研究することが出来て、やり甲斐に満ち溢れていた。当時の三年生が上手く舵を取ってくれて、私たちが研究に集中できるような環境を整えてくれたり、いつも興味がそそられるようにしてくれた。今は卒業してしまった当時の四年生も、たまに顔を出してくれたりもした。
私と沙穂と秀馬は三年生になった時、先輩たちと同じように文化研究サークルを作っていこうと決心した。
けれど、現実は理想と違う。
私たちを待ち構える現実は、一個下の後輩が雄一郎だけというサークルの存続も危ぶまれるほど、人数が少なかった。私たちの通う大学では、四月が終わるまでの間に、最低でも一学年で一人は所属していないとサークルが潰れてしまうというルールがあった。
私たちはサークルの勧誘活動を行なった。しかし、文化研究というニッチなサークルに入りたいという人は稀有だ。私たちの活動は実を結ばなかった。
そんな中、救世主のように自発的に現れたのが基山風花だった。GWに入る直前だった。
オシャレな服装に、ふんわりとした雰囲気なのに、文化に興味があるなんて珍しいな、というのが第一印象だった。だけど、私たちは風花がサークルに入ってくれたことを手放しで喜んだ。
「こんな歓迎してもらえて嬉しいですぅ。私、大学に入ったら、サークルのメンバーと旅行に行くことが夢だったんですぅ」
――風花が爆弾発言をするまでは。
最初、風花が言っていることを理解することが出来なかった。私だけじゃなくて、沙穂も秀馬も雄一郎も同じ反応だったと思う。
「あれ、活動内容はその地域の文化を研究するって書いてましたよねぇ。ということは、色んなところに行くことが出来るってことじゃないんですかぁ?」
風花は首を傾げながら無邪気に問いかける。
確かに、実際にその土地に行って、実際に文化を体験する時もある。しかし、それはちゃんとその土地の文化を研究した上でのことだ。知識という土台もないのに、いきなり現地に行っても、百パーセント理解することは難しい。加えて、しっかりと研究することにも意義と甲斐があるというものだ。
文化研究サークルを正確に分かって、ちゃんと入ってもらいたい。その一方で、もし私たちが風花の理想と違う活動をしていると知った時、風花が離れてしまわないかという危惧も生じていた。
正直このタイミングで入るのを辞められると、文化研究サークルは廃部になる。
勘違いしている風花にどう伝えるべきか迷いが生じた。
このコンマ数秒の迷いが、文化研究サークルの運命を変えた。
「風花ちゃんの言うことが正しいよ! 私たち色んなところに旅行行くからさ、絶対楽しいよ」
「わぁ、やっぱりぃ」
「そしたら、基山さん、ここにサインしてもらってもいいかな」
「はぁい」
今まで培って来たプライドを捨てて、沙穂と秀馬は文化研究サークルが存続する道を選んでしまった。
「ねぇ、本当にいいの?」
風花が書類にサインをしている間、私は小声で沙穂に訊ねた。
「せっかく一年生が入るって言ってくれてるんだから仕方ないでしょ。風花ちゃんを逃したら、本当に潰れるよ」
「……そうだけど」
「大丈夫よ。旅行なんて毎回行くものじゃないし。私たちは今まで通り研究していればいいの」
自信あり気に沙穂がウインクをしたけれど、私はそんな簡単に話が進むとは思えなかった。
私の予感は当たり、風花はサークルの姫みたいな立ち位置に君臨することになった。
風花がサークルに入った直後のGWでは、岐阜に行って白川郷を少し観光した後は下呂温泉を大いに楽しんだ。六月の梅雨時は、鎌倉まで足を運び、紫陽花を見た。夏休みになると沖縄に行って、沖縄本島をドライブして楽しんだ。そして、九月に差し掛かる今、京都や奈良に行きたいという。
楽しくなかった、といえば嘘になる。しかし、文化を研究することもなく歴史が詰まった場所に行くというのは、私にとってどうしても物足りなかった。
文化というのは、その場所その場所によって異なっていて、その土地を形成させる重要なものだと思う。歴史的背景や文化の成り立ちを分かってこそ、その場所に訪れた時に、最大限に楽しむことが出来ると私は感じている。去年までの文化研究サークルも、そうだったはずだ。
なのに今は、風花を辞めさせないために、風花の機嫌を取るための活動になっている。
本来の目的とは違う形でサークルが継続したとしても、本当に意味があるのだろうか。
風花が文化研究サークルに来てから、私の心は雲が掛かっているようだ。それどころか、最近になって雷雲に変わり、私の心をぐちゃぐちゃにかき乱している。
この鬱屈とした感情は、現実でも雨がずっと降っていることも助長しているだろう。
「……はぁ」
本日何度目か分からない溜め息が漏れる。
嵐が過ぎ去るのを待てばいい。あと半年の辛抱だ。私が我慢すればいいだけの話なんだ。
そう割り切ってしまえば、楽になる。
だけど、私にはそれが出来ない。そのくせ自分の意志を貫くことも出来ない。
なんて中途半端な人間なんだろう、私――。
「大丈夫すか、羽須美先輩」
自己嫌悪が最高潮に達しかけた時、私の頭上から声が降り注がれた。
「……ゆう、いちろう」
ゆっくりと顔を上げると、いつの間にか雄一郎が近くにいた。
<――③へ続く>

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