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[小説]Escape from②

Escape from①

 ***

 趣味のハイキングをしている最中、僕はスリルを求めて、正規ルートから離れて山奥に進んだ。その結果、奥へ奥へと進んでいく内に、樹海にまで至ってしまった。

 東西南北が分からず、誰にも助けを求めることが出来ない中、僕は――、

「本当にこれで大丈夫なのか……?」

 リュックの中にある荷物を少しずつ捨てながら、半信半疑で樹海を突き進んでいた。

 山や森の中で迷ったら、自分が通った道を把握するためにも自分の荷物を捨てるという策は、よく取られる。あわよくば、一定間隔で落とされた荷物に異変を感じた人が援助に来てくれる可能性もある。

 しかし、今回の場合は樹海の中で、常人なら寄り付かないような場所だ。
 そんな中で、目印を置いたところで、本当に意味があるのかどうかは疑問である。

 僕自身がこの策を思いついて実践したのなら、ちゃんと割り切って道を進んでいた。だけど、残念ながらそれは僕じゃない。

「今更だけど、信じていいのかな……」

 僕はスマホを見つめながら呟いた。

 そう。荷物を目印にして進むという方法を提示したのは、非通知で着信を掛けて来た正体不明の人物なのだ。

 独りきりで樹海にいることに八方塞がりになっていた僕のスマホに、あまりにもピッタリなタイミングで着信が鳴った。落ち着きがあるも若い声を持つその人は、僕が樹海から抜けるための方法として、この方法を伝授してくれた。

 そして、もう一つ教えてくれたのは、

「進む道は、ひたすら真っ直ぐ」

 彼が示した道を口ずさんだ。

 彼の言葉は、どこまで信用に足るかは分からない。しかし、右も左も分からず下手に動いたら余計に迷ってしまう身としては、自信に溢れた口調の彼の言葉に従うしかなかった。

 彼からの着信を受けて、どれくらいの時間、どれくらいの距離を進んだか分からなくなりそうだった。背負っていた荷物も、だいぶ軽くなって来たような気もする。

「騙されたのかな」

 非通知だから、こちらから向こう側に連絡を取る術はない。それでもスマホを取り出して連絡を取ろうとするのは、僕がスマホに依存しているからだろう。
 スマホの電源ボタンに触れようとした瞬間、非通知の文字がスマホに浮かび上がった。応答を押すや、「もしもし?」と相手の言葉を待たずに問いかけた。

「すごい速さだな」

 通話口の向こう側で、呆れ気味に笑う声が聞こえた。

「どうだい、順調に進んでいるかい?」
「……分からないよ。自分がどこにいるのかさえも分からないんだ。順調かどうかも分かるわけがない」
「それもそうだ。荷物の方は順調に捨てられてるかい?」
「それはバッチリだよ。皮肉なことに、肩がだいぶ軽い」
「なら順調だな。目に見える成果を喜ぶことも、大事なことだ」

 僕の今の目的は、この樹海から抜け出すこと、ただ一つだけだ。だからこそ、その目的に躍起になって、他のことに目をあてられていなかった。僕は彼に課せられた指示を、着実にこなしているのだ。

「そっか、僕、前に進んでるんだ」

 一言呟くと、更に実感が湧いて来た。

 もちろんまだ樹海を完全に抜け出す見立てはない。それでも、少しずつ今出来ることを積み重ねていくことによって、この樹海からも抜け出せる。そう気付くことが出来た。

「ひとつだけ大事な注意をしておこう」

 そう思ったところ、彼が言葉を発した。何も発さないことで続きを催促する。

「これからスマホは極力触らないことだ。いざという時、私から連絡をすることが出来なくなるからね」

 確かにその通りだ。樹海に一人で閉じ込められている今、無駄にスマホのバッテリーを消費させるわけにはいかない。名前も知らない非通知の彼こそが、僕が樹海から脱するための命綱だ。
 否定する理由もなかった僕は、「分かった」と頷いた。

「これから先も樹海を抜け出すために困難なこともあるかもしれない。けれど、最後まで希望を捨ててはいけないよ」

 その言葉と共に通話が途切れた。もう一度スマホに連絡がないかと電源ボタンに触れかけたところで、僕は指の動きを止めた。

「僕は必ず生きて帰るんだ」

 そして、荷物も少なくなって軽くなったリュックの中にスマホを入れた。

<――③へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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