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[小説]Escape from③

Escape from①

Escape from②

 ***

 ――この樹海から生きて抜け出す。

 そう希望を抱いて、いったいどれくらい経っただろう。

「半日か、一日か、もしくは……」

 それ以上の可能性もある。

 陽射しが差し込まない樹海は、今が夜なのか昼なのかも曖昧にさせる。体力が持つ限り歩こうと思っていたけれど、食わず飲まずというものは応えるものがある。
 出口の見えない道というものは、人を絶望させるには十分だ。

「せめて……」

 僕はリュックの中にあるスマホを頭の中に思い浮かべた。

 非通知の向こうにいる人物の声を信じて、僕はリュックの中身を捨てながら、ひたすら真っ直ぐに進んで来た。

 あれ以来、スマホからの着信はない。

 頼るものがなかった樹海の中で唯一垣間見えた一筋の光を信じて突き進んだけれど、流石に不安が胸に過って来る。
 ここまでスマホのバッテリーが切れることを危惧して、スマホを見ることをしなかったけど、流石に触ってみてもいいだろう。

 僕はリュックからスマホを取り出して、電源ボタンを押した。しかし、

「あれ……?」

 画面はブラックアウトしたままで、ホーム画面が表示されることはなかった。

「嘘だろ……、バッテリー切れ……?」

 信じられなかった。

 スマホの電源が切れたのは、一体いつだ。バッテリー切れを避けるためにスマホを触らない方がいいと指示されてから、僕は忠実に守って来た。
 スマホに触らなければ、その分バッテリーは持つはずだ。単純に計算しても、スマホのバッテリーが切れるには早すぎる。

「なんで……、そんなバッテリーは減らないはず……」

 一気にバッテリーが減ってしまった原因を考える。

「あ」

 思い出した。

「そうだ……。僕は充電をし忘れていたじゃないか」

 山登りを始めた時、僕は自分の失態に気が付いた。けれど、どうせ緊急事態など起こるまいと高をくくって、スマホをリュックの奥にしまい込んで山登りを始めたのだ。
 そして、樹海に迷い込み、スマホが電池切れしていることも忘れるくらいに極限状態まで追い込まれた時、非通知による着信音がリュックの中から聞こえた。

 しかし、ひとつ疑問点がある。

 どうして電池の切れたスマホから着信が鳴ったのだろう。

 少しだけ考えて、すぐに答えに思い至る。

「都合の良い妄想だった、ってことか」

 人は極限状態に至った時、精神に異常を来たし、幻覚や幻聴に遭遇することがある。

 そう考えたら納得した。

 だって、そうだろう。
 バッテリー切れのスマホから着信音が響くわけがないし、ましてや通話なんて出来る訳がない。
 自分の幻覚や妄想でなければ、あり得ないのだ。

「はは、恥ずかしいや」

 少し冷静になって考えれば分かるはずなのに、僕はスマホに救いを求めて、その言葉に縋りついた。

 まるで目の前の現実から逃げるための行為だ。

 けど、そうだ。

「……僕は昔から」

 肝心な時になると逃げ出すような人間だ。

 そのことを、今になって改めて突きつけられた。

 成す術もなくなった僕は、樹海の真ん中で立ち尽くし、過去を思い出した。

<――④へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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