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[小説]Escape from④

Escape from①

Escape from②

Escape from③

 ***

 僕の趣味はハイキングだ。山に登って自然に触れると、日常で蝕んでしまった毒が抜かれるような感覚がある。無事にリフレッシュした僕は、また日常に戻って生活を営んでいく。
 そうなれば良いのに、自分の部屋に戻った途端、僕はスマホやパソコンなどの電子機器に自ら毒されていく。

 僕は順当に生活をしていけば、社会人二年目の年だ。
 しかし、新卒で入社した会社は、今の時代に珍しく黒に黒に染まった会社で、僕は働く意欲を削がれた。退職代行に頼って退職を果たした僕は、自分の部屋でネットの海に溺れた。

 ネットは便利だ。ネットを開けば、すぐそこには自分とは程遠いキラキラとした世界が広がっている。何も考えることなく、容易に足を突っ込むことが出来、まるで自分もその世界を体験しているかのような感覚を受ける。それが錯覚で、後々自分を虚しくさせるものだと分かっているのに、画面から指も目も離すことが出来ない。

 いつも脳に刺激を与え続ける生活を送っていた。
 それでも時折り息苦しくなって、まるで息継ぎをするように昔からの趣味でもあるハイキングに出掛ける。

 僕はずっとそうだ。

 嫌なことからは目を背けて、現実逃避ばかりしている。

 日常においてはスマホを逃げ場所にして、スマホさえも苦痛に感じるようになったら、空気を変えるようにハイキングに出掛ける。
 そこでリフレッシュしたところで、嫌なものは僕の背中から完全には消えてくれなくて、またスマホに逃げる。

 そんなことの繰り返しだ。

 没頭する時だけは嫌なことも全部忘れられる気がするけど、我に返った時の絶望は逃げるよりも重く強い。
 何に対してもやる気はなくなり、ただ自堕落な日々を過ごした。もし趣味にハイキングがなかったら、今以上にどん底に陥っていたと思う。

 しかし、ハイキングに出たとしても、僕の実情は変わらない。
 ただ山を登るだけに、ちょっとした退屈と苦痛を感じた僕は、正規のルートを外れて気付けば樹海に迷い込んでしまった。

「……僕はこれからどうすればいいんだ」

 自分の性格の愚かさ、加えて今の自分には何もないことを痛感させられ、樹海の只中で歩く気力がなくなっていた。

 もちろん生きて樹海から抜け出したい。それは生物としての本能だ。しかし、樹海から抜け出したとしても、僕に待ち受けているのは何もない自分の部屋だ。そこに留まり続けて生きているのは、樹海と何が違うだろうか。閉じ込められている、という意味では根本的に変わらない。

「こんなものに依存していたから」

 ブラックアウトしたままのスマホに憤りをぶつける。

 スマホには様々な誘惑が詰まっている。それゆえ、その誘惑に溺れてしまえば、意志や思考は奪われ、現実に立ち向かう気力は枯れてゆく。

 新卒で入った会社を辞めた後、僕がするべきことは現実逃避することじゃなかったんだ。

 僕がすべきことは、紆余曲折がありながらも荒波の中でも突き進むことが出来る精神を身に着けることだったんだ。

 それこそ――、

「一番最初に捨てるべきは、スマホだったんだよ」

 ここまで珠海を彷徨う中で、リュックの中を少しずつ捨てて来たけれど、僕の中にスマホを捨てるという選択肢は一向になかった。

 着信が来るかもしれない。そう思っていたことは、確かにある。しかし、それを抜きにしても、無意識化でスマホに依存していることが一番の要因だ。

 スマホを地面に叩きつけるために、僕は大きく腕を振りかぶった。

 ――今まで僕を縛っていたスマホを壊し、そして、僕自身もここで終わろう。

 腕を振り下ろし、スマホを手放そうとしたところ、

「待ちなさい」

 確かにスマホから声が聞こえたのを耳にした。僕の体はピタリと止まった。

 ゆっくりとスマホに目を向けると、バッテリー切れのはずのスマホに非通知と表示されていた。震える手で、緑色の応答ボタンを押す。

「最後まで希望を捨ててはいけない、私はそう言ったはずだ」

 まるで叱咤激励するかのように力強い声が、樹海に響く。

<――⑤へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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