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[小説]浜辺に佇む①

 ***

「……いててっ」

 宿のシャワーをを浴びていると、小麦色にこんがりと焼けた肌がやけに痛く感じた。

 日光を浴びれば更に痛くなるし、冷水を浴びても痛みは更に増していく。日焼けによって敏感になった肌は、些細な刺激さえも感じ取っては感度を倍増させてしまう。

 そうならないように全身に日焼け止めを塗ったのに――、

「あまり意味なかったな」

 私の予想よりも海の陽射しは強烈だったということだ。

 部活を引退し受験勉強に専念するようになったけれど、高校三年生の夏休みということもあり、幼稚園の頃から交友のある青井梨乃と赤野美乃里こと私の仲良し二人組で海に行った。
 バレー部に所属している梨乃は、モデルさながらの高身長を有していて、海で水着を着ると多くの視線を集めた。梨乃の凄さは知っていたつもりだったけど、ここまで凄いのかと改めて思い知った。それと同時に、常に梨乃がどれだけ好奇な視線で見られているのか、隣に立ったからこそ身に染みて分かった。
 しかし、そんな視線は慣れているのか、梨乃はまるで気にも留めずに私と海で遊んでくれた。

「ふふっ」

 途中でビーチバレーで遊んでいる女子大生たちの輪の中に急に混ざった時のことを思い出し、笑みが零れた。梨乃はモデルみたいなスタイルをしていて、一見すると近寄りがたいところもあるけれど、本当は人懐っこい子だ。梨乃が好きなバレーが行なわれているところを見るや、自分から女子大生の輪に声を掛けに行って、一緒にバレーをし始めた。最初は困惑していたお姉さんたちだったけど、すぐに梨乃の人柄に心を砕かせ、梨乃が得点を決める度に梨乃の頭を撫でたりしていた。まるで子犬のようにくしゃっと笑みを浮かべて梨乃は受け入れていた。本来は文化部で運動神経は平均くらいの私も、梨乃と一緒に混ざって、お姉さんたちに受け入れてもらうことが出来た。

 梨乃と一緒にいると、私の知らない世界を見ることが出来るから楽しい。
 これからも梨乃と一緒に色々な体験が出来る。

「……でも」

 それが都合の良い妄想だったということを、私は先ほど知ってしまった。

 シャワーのレバーを下げて、冷水を止める。

 日焼けした肌を刺激するものに触れなくなったのに、私はまだ痛みを感じている。この痛みは日焼けした肌が痛むからではない。

 海に行った代償は日焼けだけに留まらなかった。

 敏感になって痛みを感じるのは、小麦色に焼けた肌よりも、むしろ私の心の方だった。

 ――ごめんね、美乃里。

 夕暮れに染まる浜辺で、梨乃が眉根を下げながら言った言葉が、嫌でも脳内に再生されそうになる。思い出すと、それが現実だと認めてしまいそうで、思い出したくなかった。ギュッと目を瞑って、思考を遮ろうとする。

 ――美乃里とは同じ進路に進めない。

 しかし、脳の動きを止めることが出来ない。

 梨乃の告白を聞いてから、どれだけ脳内再生してしまっただろう。その度に私の心はギュッと締め付けられて痛みを感じてしまう。
 ポタポタと浴室の床に水滴が落ちていく。

 私と梨乃の旅行は、一泊二日。つまり、今夜も、明日も続いていく。
 けれど、今の私は梨乃の顔を見る度、胸が締め付けられてしまう状態だ。
 こんな状態で本当に私は梨乃と旅行を続けることが出来るのだろうか。

 とっくにシャワーは浴び終わっているのに、私はいつまでも浴室から出ることが出来なかった。

<――②へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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