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「……う、っ」
目が覚めてちょっとの間、俺は自分がどこにいるか分からなかった。辺り一帯が暗くて、まだ眠っているのかと錯覚するほどだった。
しかし、そう思うのも束の間のことで、すぐに俺は自分が置かれている状況を把握することが出来た。
「そうだ、俺……っ!」
秘密基地にいる時に大きな揺れを感じたと思ったら、そのまま意識を失ってしまったのだ。
そして、目が覚めた時に視界が暗くなったことが意味するのは、たった一つ。
「閉じ込められた?」
先ほどの揺れによって、この山で土砂崩れか何かが起こって、秘密基地の入口が塞がれてしまったと考えるのが妥当だろう。
「やばい」
冷静に状況を把握できたところで、俺の中で焦りが生じる。
秘密基地の中では一応身動きは出来るものの、外と通じる方法はない。
最近の俺は、秘密基地を守ることに固執しすぎて、小学校の友達との交流を絶っていた。誠司も他の友達も、ここ一年くらいは秘密基地に足を運び入れていない。加えて、大人たちには秘密基地の場所がバレないようにしていた。
俺を探そうと、わざわざ秘密基地に来てくれるような人はいない。
誰にも見つけられずに、ここで過ごす未来がありありと見えた。俺は自分の死を覚悟した。
「死ぬ場所が秘密基地、か……」
小学二年生の終わり際に靖にぃから秘密基地を教えてもらってから、三年近く経過した。秘密基地に通った三年間は、色々な想い出が詰まっている。秘密基地がなかったら俺は未だに人と関わることが怖くて何も出来ていなかったかもしれない。
「ここで死んじゃうなら、まだいいや」
秘密基地によって自分の人生を生きられるようになった俺が、秘密基地で死んでしまうのは何の因果だろう。
「き!」
皮肉な運命に嘲笑を浮かべかけたところ、秘密基地の外から誰かの叫ぶ声が聞こえた気がした。
「ぁぃき!」
その叫び声は、近付いてきているのか、徐々に鮮明になって来ていた。
「泰喜! いるのか!」
そして、俺の名前を呼ぶ声がハッキリと聞こえた。
その声は明らかに大人のものであり、懐かしくもあった。
「靖にぃ!」
顔は見えてないけど、そこにいると確信して靖にぃの名前を呼んだ。
「泰喜! やっぱりここだったか。よかった」
土砂崩れの向こうで安堵の声が漏れ聞こえた。
「ちょっとだけ待ってろ。すぐに掘り起こすから」
靖にぃが言うと同時、ざっざっという音が聞こえ始めた。俺はその音に静かに耳を傾けていた。
なんで靖にぃがここにいるのかとか、そういう疑問はどうでも良かった。
今しがた死を覚悟したばかりだったけれど、靖にぃのおかげで死ぬところから助かる未来が浮かび上がって来た。
土砂崩れを掘る一定のリズムを聞いていると、徐々に光が差し込んで来た。
そして、その光が大きくなると、
「よっ、久し振りだな」
およそ四年ぶりの靖にぃと対面した。スコップを手に持つ靖にぃの顔は、汗と泥で汚れていた。
「靖にぃ、ありがとう!」
「礼は後にしよう。ほら、早く手を掴んで」
靖にぃが伸ばしてくれた手を掴もうと、俺も手を伸ばす。もう少しで靖にぃの手を掴めそうなところで、俺の動きは止まった。
ここで靖にぃの手を掴むということが、何を意味しているのか、直感的に理解してしまった。
靖にぃの手を掴んでここを離れたら最後、もう二度と秘密基地に戻って来ることは出来ない。
「泰喜?」
「ごめん、靖にぃ。俺、靖にぃの手を掴めない」
<――④へ続く>

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