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[小説]内に秘めたり①

 ***

 テレビやSNSで世間を騒がせている人が、あまりにも自分のイメージと異なっていたら、人はどういう反応を取るだろう。

 世間が抱くイメージとのギャップに親しみを感じる? それとも、自分のイメージを拭いきれずに否定する? もしくは、あえて、割り切って無関心?
 恐らく人によって千差万別だ。

 この中で私が取った行動は――、

「……」

 頭が真っ白になって言葉が出て来ない、だった。

「……」

 相手にとっても同じだったようで、想定外の出来事にポカンと口を開けている。

 あまりの予想外の展開に、私の耳から音が消えてしまった。

 ここは夕暮れに染まる放課後の教室。今日は午前だけで授業が終わり早めに家に帰ることが出来たのだけど、私は忘れ物を思い出して、誰もいないはずの学校に戻ることにした。お気に入りの女性配信者『五月』のリアルタイム配信をワイヤレスイヤホンで聞けるから、戻る事に対して苦はなかった。

 どれくらい無言で牽制し合う時間が過ぎただろうか。

「……桑内、伊月、くん、が」

 先に震えるような声を出したのは、私からだった。

 別にクラスメイトが一人で教室に残っていようが本来なら問題はない。それが普段教室に残らずに真っ先に家に帰るような寡黙な伊月くんでも、今日は勉強していたのかなと思うくらいだ。
 しかし、今日この場所この瞬間において、私はどうしても看過することが出来なかった。

 私はもう一度息を呑むと、

「……伊月くんが、五月、さん……なの?」

 自分の推測を、ハッキリと言葉にした。

 私の言葉に、伊月くんがガタッと机を動かした。その音が、リアルでもイヤホン越しでも二重に聞こえる。

 五月は今SNSを騒がせている動画配信者だ。可愛らしい女の子のアバターで、甘い声を持ち、可愛いキャラやグッズだけでなく、世間話もユーモアに富んでいる。それにより、女性ファンも男性ファンも徐々に増えつつある。
 かく言う私も、ファンの一人だ。

 だから、教室の前に来て、教室の中から五月と全く同じ内容の話が聞こえている時は正直心底驚いた。そして、五月の正体が伊月くんであることに、現在進行形で驚いている。

 ずっと無言でいることに五月を心配するコメントが、画面を覆い始めた。

 伊月くんは、ハッと我に返ると、

「きょ、今日も生配信聞いてくれて、ありがとー! ちょっと急用を思い出したから、今日はここまで。また近々配信するから聞いてねー!」

 伊月くんの声が、イヤホン越しに五月さんの声に変換されて私の耳に届く。

 急な展開に動揺のコメントが流れる中、五月さんは宣言通りライブ配信を切った。伊月くんはぐでっと椅子の背もたれに寄りかかり、ふぅと長い息を吐いた。

 推しがライブ配信をしているところを初めて見たけれど、終わった後にこんなにも脱力していたとは思わなかった。それほどライブ配信に全力を注いでいるということだ。

 一息吐き終わった後、伊月くんは顔だけ私の方に向けて、

「ねぇ、外丸笑里さん」

 私のフルネームを呼んだ。

 普段は温厚に学校生活を送っている伊月くんからは、想像も出来ないほどの圧力が放たれている。

「これからちょっと付き合ってよ」

 有無を言わせない伊月くんの言葉に、私は「ひゃい」と声を裏返らせて同意する他なかった。

<――②へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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