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[小説]窓から見た世界③

窓から見た世界①

窓から見た世界②

 ***

 命が芽吹く瞬間は、あまりにも美しく、尊いものだ。
 しかし、一番大切なのは、芽吹いた後にどう育てていくか、だと思う。

 命が芽吹いたからといって、その喜びだけを享受するようにして、あとのことを放っておいたら、せっかく芽吹いた命は瞬く間に枯れてしまうだろう。
 命が枯れずに芽吹き続けるためには、見返りは求めることなく、誰かの惜しみない愛情が必要だ。
 ここにある命たちは、どれほどの愛情を受けて来たのだろう。

 母親という立場になって愛する家族と共に公園に訪れると、ふとそう思った。

 都内でも有名なこの公園には、たくさんの想い出が詰まっている。

 私が子供の頃はよくお父さんと一緒に愛犬の散歩に出かけたり、高校生の頃は大好きな彼と散策もした。その彼から告白されたのも、この場所だった。私は嬉しさのあまり二つ返事で受け入れた。

 そして今は、愛する子供と夫と共に歩いている。

 まさか家族三代に渡って、この公園を利用するようになるとは、誰が思うだろう。しかし、それくらいにこの公園は私にとって大切な場所だ。

「あ、泣いちゃったな」

 胸に抱く娘が泣き出して、夫が心配そうに娘の顔を覗く。

「仕方ないわ。今日が公園デビューなんだもの。泣いてしまうのも無理ないよ。よしよし」

 私は体全体を揺らしながら、愛娘を宥める。リズムよく揺らしていくと、だんだんと娘が泣き止んでいき、やがて笑顔を見せてくれた。私たちを信頼しきっていることが分かる笑みは、私の命に何があっても守ってみせる、という庇護欲が芽生える。

 子供が生まれてから半年。話には聞いていたけれど、命が一人生まれるだけで、あそこまで私の生活リズムが変わるとは思わなかった。
 妊娠している時からずっと子供中心だったけれど、実際に一人の命として独立すると、私にはどうしようもないことが増える。ごはんの面倒を見たり、泣きだしたら宥めたり、まとまった睡眠を取ることも難しかった。

 けれど、その苦労さえも、娘が生きてくれるためだと思えば耐えられた。

 半年前、私の前に生まれて来てくれた日から、絶対に幸せにすると誓ったのだ。
 ずっと腕に圧し掛かる重みも、あまりにも愛おしい。

 生きとし生けるものは、きっとこうやって誰かに大切にされている。

 そう理解したら、私はもっと周りに優しく接したいと思えるようになった。

「ねぇ、あなた」

 私は体を揺らしながら、隣にいる夫を呼んだ。夫は優し気な顔で、私の顔を見てくれる。

「私たち、幸せだね」

 麗らかな木漏れ日を浴びながら、愛する人と大切な時間を過ごせていることへの感謝を噛み締めながら、そう言った。


「あれ、あの人たち、子供が増えたんだ」

 幸せそうに公園を歩いている夫婦を見て、僕は呟いた。

 あの夫婦のことは、よく知っていた。彼らがまだ付き合う前の高校生くらいから、一緒にこの公園に来ている姿を何度も見かけていた。

 彼らもまた最近見かけていなかったけれど、

「子供が生まれたら、そんな余裕はないよな……」

 そう思ったら安堵した。

 安堵したら束の間、急に現実が襲い掛かって来た。

 その現実とは――、

「僕はずっとここで何をしてるんだ……?」

 この病室の中にずっといる、という物心ついてからの宿命についてだった。

<――④へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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