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「羽須美先輩、今日で最後だなんて本当にショックなんですけどぉ」
人の心を色だたせる秋が過ぎ、身も心も凍てつかせるような冬も終わり、新たな変化を告げる春に、気付けばなっていた。
明日から大学四年生になる沙穂や秀馬、そして私は、この文化研究サークルのしきたりに従って、今日でサークル活動が終了になってしまう。
十一か月前に入って来た風花が、人懐っこく私のそばに近寄っては別れを名残惜しんでくれた。
「風花なら大丈夫だよ。この半年で文化研究サークルの活動にちゃんと取り組んで、色んな場所についても調べられるようになったでしょ?」
「……はい、それはそうなんですけどぉ」
風花は唇を尖らせながら不満気に言う。その仕草がどこか愛おしく感じてしまうのは、私が風花のことを世話の焼ける妹のように思えているからだろう。
「もし分からなくても、雄一郎もいるし、平気だよ」
「俺、のらりくらりとやっていくだけですよ?」
急に話を振られた雄一郎は、面倒くさそうに肩を竦めた。一見すると、雄一郎は何を考えているか分からない時が多い。
しかし、
「雄一郎って意外と人を見る目があるから大丈夫だよ」
この二年間の付き合いで、雄一郎の人となりの奥の部分を分かったつもりだ。
だから、今の雄一郎と風花になら、この文化研究サークルを安心して任せることが出来る。
「部長と副部長で頑張ってね」
「はい」
私の言葉に、雄一郎は迷いなく頷いた。
一方で、風花はその場で小さく拳を握り締めると、
「私、文化研究サークルが来年以降も続くように頑張りますぅ! 絶対に新入生が入部できるようにしますぅ!」
「その意気だよ、風花」
私と沙穂、そして秀馬は、それぞれ風花にエールを送った。三人が集まってサークルの先輩として雄一郎と風花に接することは、文化研究サークルのルールとして、もうほとんどないのだ。そう思うと、少しばかり、いや、かなり胸が締め付けられてしまう。
先ほどまでやる気に溢れていたようだった風花だが、急に静かになった。私は風花の様子が気になって、「風花?」と名前を呼んだ。
風花は少しばかり気まずそうに、「あのぉ」と声を漏らす。
急に改まった雰囲気に、何を言うのだろうと風花を見ていると、
「羽須美先輩に沙穂先輩に、秀馬先輩。それと、雄一郎先輩も。私が最初入部した時は、色々我が儘言ってすみませんでした」
風花は私たちに向けて頭を下げた。その意図を瞬時に悟る。
「別にいいのよ」
「おうよ、俺も色んな所に旅行が出来て楽しかったぜ」
沙穂と秀馬は、本当に何も気にしてないように言った。
「風花に一番振り回されてたのは羽須美先輩すよね」
私の方を見て言う雄一郎は、少しだけ意地悪な表情を浮かべていた。
今は真面目にサークル活動に取り組む風花だが、去年の四月末に入部した時はサークルの趣旨を理解出来ずに、ただ旅行に行ってその土地の文化を楽しむサークルだと思って行動していた。だから、風花が入ってからの半年ほどは旅行三昧だった。
文化を研究するという活動が出来なくなったことに違和感を抱いていたけれど、風花が辞めてしまったらサークルが解散してしまうため、私はあえて何も言わなかった。
そんな中、我慢をため込んでいたことを雄一郎は見抜いて、私にアドバイスをくれた。
雄一郎のアドバイスのおかげで、このままでは行けないと思った私は、風花とちゃんと向き合うことに決めた。風花が納得してサークル活動に参加してくれれば良し、参加してくれなさそうだったら私が辞めようと自然と思えるようになった。
風花と二人きりになった時、私は話を切り出して、サークルの趣旨を一から説明した。私の想像では、風花は何かしらの我が儘を言うかと思っていた。しかし、私の予想に反して、風花は私の話を一つ一つちゃんと聞いていた。
そして、私の話を全て聞き終わった後、
「羽須美先輩、ごめんなさい」
と頭を下げた。
「私、誤解していました。文化を研究する、って言うから、色んな場所に行って色んな文化を直に触れることが研究に繋がるのかなって思ってたんですぅ」
あまりの素直さに、私は正直たじろいでしまった。
「羽須美先輩、私、バカなんです」
「きゅ、急にどうしたの?」
「バカだから、真面目に研究することも出来ません。こんな私でもサークルにいても大丈夫なんですかぁ」
あれだけ苦手意識を抱いていたはずの風花が子供のように泣きじゃくる姿を見て、なんだか今まで一人で抱え込んでいたこの半年間がアホらしくなって来てしまった。
私は軽く息を吐くと、風花の頭に手を乗せて、
「うん、大丈夫だよ。一緒にやっていこう」
そう言った。風花は「ありがとうございますぅ」と言った。
風花と和解した後の空は、久し振りの雲一つない快晴だった。
――それからずっと、風花は言葉通りに真面目にサークル活動に取り組むようになった。
今になって思う。
風花のことで悩んだ時間は、私にとって必要な時間だった。いや、私だけじゃなくて、風花にも、文化研究サークルにとっても必要だった。
風花のおかげで、私は真剣に向き合う大切さを学ぶことが出来た。
「ううん。風花がこのサークルに入ってくれて良かった、って心から思ってるよ」
「羽須美先輩ぃっ!」
そう言うと、風花が甘えるように私に抱きついて来た。
「いつでも先輩たちが戻って来れるように、私、頑張りますぅ!」
半年前以上に愛しく思えるようになった小さな頭を撫でながら、私は空を見上げた。
「あ――、虹だ」
この先の未来が上手くいくと祝福されているような気がした。
<――終わり>

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