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[小説]翼を羽織って①

 ***

 季節はもう春だ。
 日本列島の上部の方に位置する私が住む町も、冬の寒さなどなかったくらいに、空気に温もりが伴ない始めている。

 なのに、この部屋では、まだエアコンを手放すことが出来ない。

 扉を開けるや部屋の電気を着けると同時に、勉強机の上に置いてあるリモコンを手に取って、エアコンを起動させた。温かい風によって、部屋に温もりが満ちていく。

 私はベッドに腰かけると、ふぅと息を吐いた。

 今日は中学校の同級生と一緒に遊んだ。
 卒業間近のおかげで、ここ半月の授業は午前中で切り上げられて、昼前には帰宅することが出来ている。その時間を使って、駅前のカフェでおしゃべりをしたり、ショッピングをしたり、毎日別のことをしながら友達と一緒に遊んでいる。
 卒業までの残りの時間で、中学生としての想い出をめいっぱい作ろうと励んでいる。

「今日も楽しかったな……」

 そう呟きながら、ベッドに仰向けで倒れ込んだ。

 ベッドの上に体重を預けると、心地よい疲労感が急に襲い掛かって来る。昼から夜ごはんの前まで、ずっと遊んでいるのだから当然の話だ。お母さんから声を掛けられるまで、少しだけ目を瞑ろう。

 今日は、みんなでカラオケをした。明日は、みんなでボウリングをする。卒業してしまうからこそ、この何でもない時間を幸せに思う。

 みんなと一緒に過ごす時間が、このまま永遠に続けばいいのに。
 叶うはずのない願いを、私は切実に願ってしまう。

「あ」

 ピロンという電子音が鳴って、私は現実に戻った。チャットアプリを開くと、「千早、今日めっちゃ楽しかった」というメッセージが朋枝から届いていた。「私も、っと」、体を起こして私は返信した。

 ふふっ、と笑みを零したところ、壁に掛けられている二種類の制服が私の目に入った。
 一着は中学校の制服、もう一着は四月から通う高校の制服だ。

 三年間着こなした中学の制服と比べて、試着でしか着たことがない制服はシワひとつないほどに綺麗だ。一度だけ試着した時は、少し大きめの制服を頼んだということもあって、私に似合っていなかった。

「本当に似合う日なんて来るのかな」

 道行く高校生はしっかりと着こなしていて大人のように感じられるのに、そのような未来が私には見られなかった。
 そう考えた時、何故だか私は寒気を感じた。

「リモコン、リモコン」

 エアコンの温度を一度上げる。たった一度変わるだけで、室内の温かさはみるみるうちに変わっていく。

 そのはずなのに、私はすんと鼻を鳴らした。十分に温まっている室内を、物足りなく感じてしまうのは、エアコンの調子が悪いからではない。
 私の心が弱いからだ。

 みんなとの思い出が詰まった中学校を卒業してしまうことが、私にはたまらなく寂しい。他の同級生に聞いても、多分ここまで未練を感じている子はいないと思う。

 しかし、それも仕方のないことだ。

 だって、

「……私だけ東京なんだもん」

 卒業後の進路は地元の高校じゃなく、お父さんの仕事の影響で家族みんなで上京することが決まっているのだから。

<――②へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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