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[小説]バタフライエフェクト④

バタフライエフェクト①

バタフライエフェクト②

バタフライエフェクト③

 ***

 プロジェクトリーダーという立場になって、朝の時間が大事だということをより痛感するようになった。

 日々目まぐるしく働くようになって、色々と考えることも増えて、自分に投資する時間が限られるようになってきた。

 時間は有限だ。やるべきことをやって、不必要なことはやらないようにしないと、いくらあっても足りなくなる。
 だからこそ、始業時間よりも早く会社に来て、書類やToDOリストなどのチェックや自己研鑽のための読書をすることにした。

 人を纏められる力は、俺にはまだまだない。だから、こうして人よりも多くやらなければならない。

「こうなる前に初めからちゃんとやれ、って話だけどさ」

 過去の後悔を押し殺すように、俺はコーヒーを口にした。そして、ちょうどコーヒーを呑み込んだ時、

「おはようございます」

 扉を開けて入って来たのは、須賀だった。

「おはよう、今日は早いな」

 時計は七時四十分を示している。

 プロジェクトメンバーの中で坂居先輩と穴村に対して、現在トラブルを抱えて頭を悩ませているけれど、須賀に対しては何も心配していない。

 須賀は俺の年も社歴も三つ下の後輩になるが、実は大学時代に所属していたサークルの後輩でもある。といっても、その時は俺は就活中で、あまり顔を出していなかったけれど、須賀のことはよく憶えている。
 当時から淡々としているところはあったけれど、周りとのコミュニケーションを絶っているわけでもないし、やるべきことはちゃんとやっていた。むしろ、雑務の漏れなどにいち早く気付き、須賀に助けられるような一面も多くあった。一年生でありながら、早くもサークルの中で必要な存在となっていた。
 俺と同じ会社に入った時は驚いたけれど、須賀は相変わらず淡々と着実に仕事をこなし、ここでも将来有望な人材として接せされている。もちろん会社の中では同じサークルに所属していたことは隠していて、大学時代のような雰囲気に戻るのは定時外かつ二人きりの時だけだ。

「それはこっちの台詞ですよ。古泉さん、いつから来てるんですか」
「十分前だよ。プロジェクトリーダーになってからは、七時半には来るようにしてる」
「はっや。ちなみにリーダーになる前は?」
「八時ちょっと過ぎだったかな」
「やっぱ古泉さんって基本真面目ですよね」

 俺に対する須賀の評価が、『真面目』であることに内心驚いた。関係性も薄く、表面でしか見られていない清水さんならまだしも、結構長い付き合いにもなって、俺の打算的な内面なんて見透かされていると思っていたのに。

「……意外だな。俺、自分では適当な方だと思ってて、お前にはバレてると思ってたけど」
「古泉さん、自分のこと分かってなさすぎです。古泉さんは真面目な人ですよ、私の中では」

 含みのある言い方だった。須賀はフフッと微笑むと、

「確かに適当な部分もありますよ。人に合わせすぎて、周りに目が向かなくなるところもあります。でもそれ以上に、古泉さんが頑張ってるところ、今も昔もずっと見て来てるもん。だから今回のプロジェクト、古泉さんと一緒に出来ると知った時は、すごく嬉しかったんですよ」

 そこまで言われて否定するほど、さすがの俺も自己肯定感が低いわけではない。

 仕事をしている中で言われて嬉しい言葉は、仕事っぷりを認めてもらえた時だろう。しかし、こうも真っ直ぐに言ってもらえるとは思っていなかった俺は、少々恥ずかしさを抱き、本に顔を向けた。

「何を読んでるんです?」
「リーダーシップに関する自己啓発本だよ」

 俺は本の表紙を見せると、須賀は目を細めながら本に顔を近付けた。

「作者の安済さんって、古泉さんがこの前講演会に行った時に講演してくれた人ですよね。ほら、やっぱり真面目だ」

 須賀は笑った。

 俺は自分のことを適当な人間だと思っている。安済先生の本を読むのだって、今の現状を更に拗らせないようにプログラムリーダーとしての最低限の責任を果たす、っていう理由が大きい。それが当たり前の行動だと思っていた。
 しかし、俺の行動が他の人には出来ずに、真面目な行動だと言うのなら認識を改めなければいけないようだ。

「なぁ、須賀」
「はい?」
「今日の昼空いてたら、一緒にご飯食べないか?」

 俺の提案に、須賀は顔を赤らめながら「え?」と声を出した。

「それってもしかして――」
「――この本に一緒にご飯食べたら仲良くなるって書いてあるんだ。メンバー皆で食べに行こうぜ」

 須賀はあからさまに溜め息を吐いた。

「なんだよ、もしかして他に予定があったのか?」
「違いますよ、ないですよそんなの。まだプロジェクト本格始動してないじゃないですか」
「痛いところ突くな……」

 須賀には珍しい早口で責められ、俺は少しだけ後ずさんでしまった。

「でも、いいんですか? あの二人が一緒の空間でご飯なんか食べたら、この前以上に空気が壊れると思いますよ。古泉さん、辛くないんですか?」
「いいんだよ」

 俺は迷いなく答えた。

 確かに須賀の言うことも一理ある。この前の会議では、俺に対する二人の考えを聞いた。もちろん誤解ではあるけれど、過去の俺の行動によって、俺は二人に相当な悪印象を抱かせてしまっているのが現状だ。そんな相手と一緒に食事したとしても、二人からしたら苦痛の時間でしかないだろう。

 しかし、そこで行動しなかったら、何も変わらない。

 良くも悪くも、大きくても小さくても、何かを変えたいなら行動しなければならない。すぐに結果が出なかったとしても、もしかしたらこの時の行動が、大きな竜巻を生み出すかもしれない。

 だから、まずはそのキッカケとして、

「まず俺は二人が考えていることを知りたい。互いに思っていることが分からないと、平行線のまま分からないだろ。そのために、ご飯を食べるんだ」
「古泉さんらしいな」

 須賀は自分の席に座るやパソコンを開いた。

「そしたら午前中の仕事はパパッとこなしましょうか。今日は何します?」
「昨日とある会社と交渉したんだけど、話が上手く行きそうでさ。このまま進めば、良いプロジェクトが出来るかもしれない」
「え、どこの会社です?」

 坂居先輩と穴村が来るまでの間、俺は昨日あった出来事を須賀に説明することにした。
 須賀は目を輝かせながら、うんうんと聞いてくれた。

<――終わり>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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