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[小説]小さな一歩②

小さな一歩①

 ***

「やれば出来る」

 中学校に入学する直前、僕が慕っているお祖父ちゃんから激励の言葉を貰った。僕の背が大きいのは、お祖父ちゃん側の遺伝を受け継いでいる。それゆえ、周りの小学生よりも背が高い僕でも、お祖父ちゃんは常に見上げなければならない存在だった。

「だから、風太。最初から諦めることはしないで、やりたいことに挑戦しなさい」

 僕の頭を撫でるお祖父ちゃんの手のひらは、すっぽりと頭を収めてしまうほどに大きかった。脳天から全身に力が巡っていくような感覚を抱いた。
 これから始まる新生活に幾ばくかの不安を感じていた僕にとって、まさに勇気づけてくれるようなものだった。

 入学早々、僕はサッカー部に入ることを決めた。元々サッカーが好きだったこともあるし、小学校の時にサッカーをすると、この大きな体を活かしてゴールを決めることも出来た。
 お祖父ちゃんの言葉を信じ、サッカー部でレギュラーになるためならば、僕は何でもすると決めた。

 最初は順調に事が進んでいた。
 小学生と変わらない体格をしていた周りの新入部員に対して、僕の体格は既に高校生の域に達していた。上級生に比べても、文字通り頭一つ抜けてもいた。期待の大型新人として、サッカー部の中で僕は持て囃されるようになった。

 ――これなら頑張れば僕もレギュラーになれる。

 お祖父ちゃんの言葉と、自身の体格、そして過去にスポーツ万能だった経歴もあいまって、僕はやる気に満ち満ちていた。

 そして、入部してから一か月ほどが経過し、新入部員の実力を知るためが目的の、中学最初の紅白戦が行なわれた。
 その後半六分、マッチアップした同級生である大弥に怪我をさせてしまった。

 今でも鮮明に思い出すことが出来る。当時の僕の身長の三分の二ほどしかなかった大弥が足を抱えて蹲る姿を、僕は見下ろすことしか出来なかった。
 とんでもないことをしでかした、と僕は思っていた。

 言い訳はある。
 僕は自分の実力を発揮するために、パスをたくさん求めていた。パスを受け取ると、僕は敵陣を切り開き、多くのゴールを決めた。正直に言えば、僕の独壇場だったと思う。だからこそ、体の大きな僕に対して、相手チームは思い切り体当たりをして止めようとしていた。度が過ぎる当たりは、僕を精神的にも追い詰めていった。
 そんな状態で、ボールを持った大弥が僕の前に迫って来た。ふつふつと湧き上がった怒りを発散するように、中学一年生の平均よりも背が小さかった大弥に、僕は力加減を誤ってしまった。
 思い切りスライディングをした結果、僕は大弥に大きな怪我を負わせてしまったのだった。

 大弥を怪我させる前のシーンは、こんなに憶えているのに、その後のことはあまり憶えていない。

 足を抑えて蹲る大弥を見て、大きな体では許容出来ないくらいの速さで心臓が高鳴っていたことだけは憶えていた。

「タンカ持って来い!」

 顧問の先生は大声を張っていたのに、やけに遠く響き渡っていた。世界がけたたましい速さで動くのに、僕は指一つ動かすことさえ出来なかった。

「やれば出来る……。やれば……」

 お祖父ちゃんから貰った大切な言葉を、呆然と立ち尽くしながら、何度も縋りつくように呟いた。

 あの日語ってくれたお祖父ちゃんの言葉は、きっと嘘ではない。行動しなければ何も生まれない。そんなこと誰にだって分かる。だけど、やった分だけ成功するなんて、全ての人に適用されるわけでもない。

 僕には、その言葉の実を結ばせることは出来なかった。
 頑張ったって出来ないことは、この世界にたくさんあるのだ。

 僕はそう痛感してしまった。

<――③へ続く>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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