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[小説]マタノボル②

マタノボル①

 ***

「あけましておめでとう、ヨッカ!」

 パルコがそう言った時、私の頭は理解することを拒んでいた。

 私とパルコは初日の出を見るために、年が変わったと同時に、地元の山を登り始めていた。年明けの挨拶は、その時に済ませたはずだ。
 百歩譲って、頂上に登って初日の出を見たタイミングで言うのなら、まだ理解が出来る。

 けれど、私たちは、まだ頂上に達していない。

 しかし、それよりも何よりも、

「……なんで周りが暗いの?」

 初日の出独特の温かで希望に満ち溢れた陽射しに、私とパルコは包まれたはずだ。

 なのに、なんで空が暗くなっているのだろう。意味が分からなかった。

「なんでって……。ヨッカぁ、今は年が明けたばかりだよ」

 パルコは自分のスマホを私に見せながら、「ほらほら」と言う。やけに眩しく感じられるスマホの画面を見て、私は息を呑んでしまった。

「……0時0分」

 時刻は年明け直後を示していた。

「新年と同時にこの山を登り始めて、一緒に初日の出を見ようって言ったじゃん。憶えてないの?」

 パルコの言葉が、すんなりと頭に入って来なかった。私の頭の中は、現状を把握することで精一杯だったのだ。
 今の状況から察するに、一度体験した時間を、私はもう一度過ごすようになっている。

 現実ではあり得ないことが起こっているを察すると、

「まさか、噂は本当ってこと?」

 この山には、年が変わったと共に足を踏み入れて初日の出までに頂上に辿り着いた者の夢を叶えるという良い噂がある一方で、もし初日の出までに登頂が出来なければ山から下りることが出来ない、という悪い噂もある。
 もし私が今タイムループに巻き込まれているなら、確かにこの山から下りることは叶わない。

「ヨッカ、大丈夫?」

 私は自分のことだけに気を取られて、大切なことを確認していなかった。

 私を案じてくれているパルコに向き直ると、平然とした顔つきだった。もしパルコもタイムループに巻き込まれてしまったなら、私みたいに動揺しているはずだ。

 つまり、この山から下りられなくなっているのは、私だけ?

「パルコ……? 冗談でしょ?」
「ん、何が?」

 念のため言葉を濁しつつ確認してみるも、パルコは私の言葉の意図を丸っきり察していなかった。

 決まりだ。

 私はギュッと拳を握り締めると、

「ごめん、私、先行くね」
「ヨッカ!」

 パルコの制止する声を無視して、全力で山を登り始めた。
 深夜の山道は暗く、頼れるのは薄っすらと注がれる月明かりだけだった。それだけで、一度登った山道を走るには十分だった。

 走りながら、私は考える。

 タイムループの決定打は、もう少しで頂上に辿り着きそうなタイミングで、私とパルコが初日の出の陽射しに照らされてしまったことだろう。眩い陽射しになんとか目が慣れたタイミングで目を開けると、私は入口に立っていた。

 私が強い願いを抱いたか分からないけど、このタイムループの打開策は単純明快だ。
 速く登ればいい。

 初日の出が出るよりも前に頂上に登れば、流石に初日の出を見逃すなんてことはあり得ない。
 幸いにも、私の特技は走ることだ。
 頂上に辿り着くという一点だけに集中すれば、同じ過ちを繰り返すことはない。

「はぁ、はぁ……っ」

 とはいえ、普段から走り続けていても、さすがに山を全力疾走すれば、体力の消耗が激しい。しかも、今は部活でガッツリ走り込んでいるのではなく、ランニング愛好会として趣味で走っているだけだ。

 しかし、その甲斐もあって、まだ陽が昇る前に頂上に辿り着くことが出来た。時間を確認しても、初日の出まで三時間近くもある。

「これなら大丈夫でしょ……」

 安堵しながら、額の汗を拭う。

 このまま時間が経てば、いつものように陽が昇る。そうしたら、私は晴れ晴れとした気持ちで新年を迎えることが出来る。

「パルコ、怒ってるだろうなぁ」

 パルコはお世辞にも足が速いとは言えない。それに体力もない。

 きっと初日の出がだいぶ登り切って、太陽が完全に姿を見せたところで、パルコは疲れた顔をしながら頂上に着く。そして、いの一番に「ヨッカ、なんで置いていくの?」って、泣き顔を浮かべながら私に言うんだ。

「そしたら、パルコになんて言おうかな」

 一緒に山を下りながら、私はパルコの機嫌を取る。

「こういう一年の始まりも悪くないよね」

 ちょっと先の未来を予想して、思わず笑みが零れた。
 そうしていると、次第に空にグラデーションが生じて来た。もうすぐ初日の出だ。

「――」

 つい先ほども見たばかりだけれど、日の出の瞬間というものは美しい。美しく荘厳な色に包まれ、あまりの眩さに目を瞑った。

 そして、ようやく光に目が慣れて、目を開けると――、

「あけましておめでとう!」

 私の隣に立っていたパルコが、そう言葉を紡いだ。

――③へ続く

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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