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[小説]シアワセリベンジャー⑤

シアワセリベンジャー①

シアワセリベンジャー②

シアワセリベンジャー③

シアワセリベンジャー④

 ***

 ずっと同じ空間に閉じ込められていると、そこが世界の全てだと錯覚してしまう。それはきっと、思考に対しても、同じことが言えるだろう。

 憧れの人と付き合えたことに舞い上がった私は、彼に固執するようになった。
 あの時の私の世界の全ては、間違いなく彼だった。彼を中心にした世界で、私は彼の周囲を回る惑星に過ぎなかった。誰に見向きされない小さな存在だとしても、彼に求められていればそれで十分だった。

 けれど、私は彼にあっけなく捨てられ、何もない真っ暗な世界へと放り出された。
 寄り辺を失い、存在理由がなくなった私は、どう生きていいか分からなくなった。

 ――仕返し、しよ。

 そんな時、私の大切な幼馴染であるチグちゃんは、そう言った。

 チグちゃんの言う仕返しとは、彼といた時よりも幸せになって、彼を見返してやること。物騒な言葉とは裏腹に、私のことを気遣って労わってくれるチグちゃんらしい優しさが詰まっていた。

 けれど、チグちゃんはハッキリとした方法を教えてくれなかった。
 どうすれば彼といた時よりも幸せになれるか、を自分で見つける必要があった。

 自分でどうすれば見つけられるか、そして本当に見つけられるかも不安だったけれど――。

「分かったよ。私が何に幸せを感じるのか」

 チグちゃんが先に座っていたカフェの座席に着くや、興奮冷めやらず声高らかに言う。

「私の周りにいる人が笑顔になってくれることだったんだ」

 私が辿り着いた結論を告げるや、まるで全て見通していたかのようにクーちゃんは口角を上げた。

 自分が何に喜びや幸せを感じるのか、正直考えているだけでは堂々巡りで分からなかった。思考の渦に呑み込まれ、自分で自分を見失いかけもした。

 そんな時に、答えのヒントを与えてくれたのは、職場だった。
 患者さんの一人である田島さんが私のことを褒めてくれて、私と接したことで元気が出たと言ってくれたことが、最初のきっかけだった。

 私は当たり前のことをいつも通りしただけだ。そんなに褒められる道理もない。
 そう思っていたはずなのに、確かに胸の奥で熱い何かが燃え上がった。

 その正体を手繰り寄せた時、私は自分の幸せへの道筋が分かった。

 私が何よりも幸せに思える瞬間は――、

「誰かのサポートをすることで、周りを力づけてあげられることが嬉しくて、幸せなんだ。だから、私は看護師という仕事を選んだ」

 より近く、より支えられる環境はどこだろう。そう自分の中で突き詰めると、『看護師』という言葉が浮かんだ。そのために必死に勉強して、私は夢を叶えることが出来た。
 けれど、夢を叶えたその後は、私の思い描いたストーリーとは異なっていた。

 仕事は忙しいし、悲しいことに直面したとしてもゆっくり泣く時間を与えられない職場だ。
 様々な出来事に心を費やせるわけがなく、日々に追われ、そして、私は夢を忘れて現実に生きるようになった。

 楽、ではあった。楽しくはない。
 やり甲斐を失い、無難に仕事をこなしていた時、私は彼と再会した。

 今なら分かる。

 私は彼に依存していた。依存して、自分を偽って、世間が言う幸せ像を私の幸せ像だと言い聞かせながら日々を過ごしていた。

 だけど、違った。

「自分の幸せに気付いてから、私はより職場を駆け回ったよ。患者さんに一層声を掛けたり、大変そうな同僚たちの仕事に手を貸したり……。体力的にはずっとずっときつくなったはずなのに、不思議だよね、心は全然大変だとは思わなかった。むしろ、誇らしいことだと思って、楽しく仕事が出来たんだ」

 心が持つ力というのは、一般常識では計り知ることが出来ない。

 自分で探して辿り着いた――いや、戻って来たからこそ、私は確信を持って言える。

 もう誰にも振り回されない。
 私は私の意志で、これからも周りの人に仕えて、幸せの橋渡しをしてみせる。

「ねぇ、クーちゃん」

 ここまで静かに話を聞いてくれていたチグちゃんが、言葉を紡ぐ。

「仕返し、出来た?」

 疑問形であるチグちゃんの言葉だったけれど、まるで確信に満ちた言い方だった。さすが私の幼馴染だ。

 だからこそ――、

「うん」

 私は迷いなく首を縦に振った。

<――終わり>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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