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[小説]運命の道④

運命の道①

運命の道②

運命の道③

 ***

 俺はどこで間違ってしまったのだろう。

 怒涛の如く全身を押し寄せる痛みに耐えながら、俺は必死に自分に問いかけていた。
 もしあの時、左に曲がって繁華街に行くことはせず、右に曲がっていれば運命は変わっていたのだろうか。そうしたら、俺は怪しい仕事に手を出すことなく、今もなお日本一周を続けられていたかもしれない。

「……いや」

 現実を見ることを拒んだ甘い戯言だ。

 いつどこで俺が間違ったのかなんて、誰が見ても明白だ。だって誰しもが言っていたではないか、「自転車で日本一周なんて無謀だ」、と――。

 痛みに耐えながら、なんとか動く首を横に向ける。視線の先には、この旅で唯一ずっと一緒にいてくれた相棒が、大破した姿で横たわっていた。仮に体が動くようになったとしても、日本一周の夢を果たすことは厳しそうだ。

 人生も、成し遂げたいと思った夢も、中途半端に終わってしまった。

「……なんで、こんな」

 思わず自分の運命を呪う言葉が――、

「こんなこと、やったんだろ……」

 ――否、自分の行動を呪う言葉が口から漏れた。

 蛙の子は蛙、という言葉があるように、生きとし生ける者の運命は既に決まっていると思っていた。だから、向かう工程は違えども、結局は同じ運命に辿り着く。
 どれだけ努力しても運命を覆せないのなら、楽しんだ方が良い。そう思って、俺は好きなことをやろうと生きてきた。

 けれど、違う。
 運命は行なったとおりに決まるものなのだ。

 この今の俺の運命は、あいつの手を振り解き、ペダルを漕ぎ始めたあの明け方から決まっていた。

 目の前の理不尽な出来事から逃げ出したくて、なんとなく楽しそうという理由だけで、俺は自転車を漕ぎ始めた。

 事前調べも準備も、特に何もすることはなかった。自分の可能性を無邪気に信じていた俺は、行き当たりばったりでも何とかなるだろうと思い込んでいた。また、怪しいと思いつつも、手っ取り早く稼げる案件に手を伸ばした。少し考えれば、身に危険が及ぶと分かっていても、楽な方を選んでしまった。

 俺の悪いクセだ。深く考えもせず、手あたり次第に飛び込んでしまう。
 その甘い考えで行動したことが、俺の運命を決した。

「……ぅ」

 もしも、あの時、あいつの言葉を受け止め、あいつの手を握っていたら。

 起業したあいつの会社に入って、働いただろう。俺の個性を理解し活かそうとしてくれるあいつのことだ。大変なこともあるだろうけど、やり甲斐を感じながら、楽しく仕事が出来るはずだ。

 そんな笑い合う未来が、ありありと脳裏に思い描くことが出来た。

「……っ」

 運命は最初から定められていない。自分の選ぶ道によって、運命が決まっていく。
 最良で最高な運命を迎えるためには、選択して行動を続けなければならない。

 今更ながらに理解できた俺の喉がひくりと震え、連動するように体も動く。先ほどから全身に押し寄せていた痛みだが、動けば更に痛みが増す。呼吸をすることすら苦しいほどだ。

 けれど、幸いなことに、俺はまだ生きている。自らの過ちも、身を持って自覚した。

 これから、まだいくらだってやり直すことが出来る。

「……だから」

 夜が明けて、世界に光が灯ったら動き出そう。

 今の最悪な運命ではなく、今度こそ理想的な運命を掴み取ってみせる。

 そして、今――。
 眩い朝日が、世界を照らし始める。

<――終わり>

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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