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[小説]Let’s PARTY,Let’s DANCE②

Let’s PARTY,Let’s DANCE①

 ***

「ごめん、私はやらないわ」

 そう言い切った私の言葉によって、部室の中の空気が一気に冷え切ったのを肌身に感じた。特に、部長である水緒は開いた口が塞がらないようで、半開きで私のことを見つめている。
 その反応は当然だろう。祭りで行なうダンスのための振り付けを一から考えたくせに、当の本人は参加しないなんて前人未到だ。私も逆の立場だったら不満を抱く。

「え、えっと、璃星、なんで?」
「水緒も知ってるでしょ。私が目指してるのは、プロなの。正当な評価はおろか、ダンスのダの字も知らないような人の前で易々とするダンスはないの」
「でも、みんなでやろうって話してたじゃん」
「だから、ダンスの振り付けは手伝ったでしょ」

 部活に所属している以上、さすがの私も完全に何もしないというのは気が引けた。だから、せめてもの罪滅ぼしとして、ダンスの振り付けだけは一から考えたのだ。
 実際、振り付けを考えることは良い経験になったと思う。客観的に人の心を惹きつけるための手法をプロのダンス映像を見ながら学んだし、指先ひとつにも意味があることも新たに発見出来た。正直プロのダンサーや振付師の頭の中は、一般人と異なっている。けれど、今回の一件を通して、私にもその実力があることが分かった。

 水緒は唇を噛み締めながら、「そうだけど……」と言った。他にも何か言いたいことがあることは容易く察することが出来たけど、取り合ったら厄介なことになるのは目に見えている。

「なら、私に出来ることはやったわ。振り付けのことで分からないことがあったら聞いて」

 それから私はダンス部に顔を出さないで、自分のダンスを磨くことに専念した。 

 私の夢は、プロになって世界で有名なダンサーになることだ。
 その一環として、私は自分のダンスをしている動画を『Re:HO』というアカウントでアップしている。幸いなことに、私が動画を出す度に多くの好反応をもらうことが出来ていて、更には私のダンスを真似て動画を投稿する子たちもいる。本当にちょっとではあるが、動画によって収益も得ている。『Re:HO』という存在は、世界に対しての影響力を少しずつ培っていた。

 このまま高校を卒業したら、渡米して更にダンスに身を投じるような生活を送りたいと考えている。
 ダンスでご飯を食べていくために、私は今からプロのような自覚を持たなければならない。

 そのために、ただ場を盛り上げるだけの安売りなダンスをしてはダメだ。水緒や他の部員たちは、ダンスが出来ればそれでいいと思っている節があるが、私は同じようにしてはならない。自分のダンスに付加価値を与えることによって、希少性をもたらすのだ。

 理想を言えば、高校時代に全国出場の経験を持つインフルエンサー、という肩書をもって世界で戦いたい。

「だから、今やらないといけないのは、個人技を磨くことだ」

 プロや審査員、またはライバル達も圧倒するようなダンスが出来るように、一分一秒も無駄にしたくなかった。

 一見すると身勝手にも思える私の行動を、多分みんな理解してくれないだろう。必要最低限の部活動しかしない私を見て、「みんなで一緒にやった方が想い出になるよ」と水緒は言った。

 確かに一理あると思う。でも、私は想い出なんかよりも、実績が欲しかった。ひたすらに練習に身を投じて、自分自身を高めていきたい。

 だから、妥協案として私は振り付けを自ら申し出た。
 少なからず協力したことによって罪悪感を抱かなくてもいいし、何よりも私の構想した振り付けを皆がしっかりとダンスすることが出来れば、客観的な立場で私も自分の振り付けを確認することが出来る。

 私が今どれだけの実力を備えているのか、本当にゼロからイチのダンスを生み出すことが出来るのか、ここで試したかった。

 利用しているようで申し訳ないけれど、今回の機会を私は自身のステップアップとする。

「さて、ちゃんとやってるかな」

 今日のノルマを終えた私は、みんなの様子を見に行くことにした。

 私が振り付け案を渡してから、すでに三週間が経過しているところだった。そして、本番までは残り二週間を切ってしまっている。

 どうせならクオリティが高いダンスをしてほしいと思ったから、要所要所に見せ場となるような難しい振り付けを入れた。みんなの実力からしたら猛練習が必要になるかもしれないけれど、完璧に踊れば見た人を感動させるようになっている。

 私が考える限りベストなものを作った。

 しかし、振り付け案だけを渡してハイ頑張ってと終わらせてしまっては流石の私もバツが悪い。
 三週間も放置していたのか、というツッコミがありそうだけど、そこはスルーしてほしい。

「……なにこれ」

 しかし、初めて見た練習は、私の想像よりもぐちゃぐちゃになっていた。いや、そもそもの話、「全然違うじゃない」、私が構想した振り付けの原型は最早ないに等しかった。

「ねぇ、なんでこうなってるの?」

 壁際に背中を預けてドリンクを飲んでいた涼乃に問いかけた。飲み口から口を離すと、

「あー、璃星の振り付けが難しくってさ。皆にも出来るように、水緒がアレンジ加えたんだ」

 その名の通りに涼しい顔を浮かべながら答えた。「でも、そのおかげでさ――」、続く涼乃の言葉を最後まで聞かずに、皆の中心に立っている水緒の方へと行った。

 他の部員は申し訳なさそうな顔を浮かべていたけど、水緒だけは違った。私に対して無邪気な笑顔を浮かべると、

「ねぇ、璃星。璃星が考えてくれたダンスをベースにして新しく考えてみたんだけど、見てみてよ。これならお祭りに参加している人も楽しめると思うんだ」

 まるで自分のアイディアを褒めてもらいたい子供のように言った。

――③へ続く

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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