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[小説]真の勝者④

真の勝者①

真の勝者②

真の勝者③

 ***

 世の中が全員敵ならば、俺も誰かにとって敵であっていい。

 他者を貶めなければ生きることが出来ないなら、心を鬼にしてでも、他者を養分にしていこう。

「仕方ないんだよ、生きるためには」

 今の世の中は、人の言葉を妄信するような真面目で優しい人が損をする。

 実際、俺がそうだった。

 仕事では、会社の売上に貢献しようと時間を捧げて真面目に働いたというのに、俺が昇進することに危機感を抱いた上司や同僚によって邪魔をされた。
 恋人にだって、ただただ大切にしたいがあまり優しくしたのに、重いと言って別れを告げられた。
 友達だと思っていた人間には、実のところ何とも思われていなかったようで、掌を返すような裏切りを受けた。
 家族にさえ、家のために何もせずに部屋に籠り切りだけの人間に食わせるメシはないと、実家を出ていくように言われてしまった。

 一方的に信頼していた分、心の傷も深まった。

 所詮世の中はそんなものだ。もう過度な期待はしない。
 この理不尽で敵だらけの世の中を生きるためには、心を鬼にしなければならない。

 だけど、やっぱり人への情を捨てきれない俺は、顔を合わせて他者を貶めるような真似は出来ないだろう。

 だから俺は、顔を合わせることなく罪悪感も抱きにくいネットを標的にして、甘い蜜を啜っていかなければならない。幸い俺はネットの知識に対しては豊富なつもりだ。この知識を駆使すれば、情報弱者を騙しながら、楽して金を稼ぐことも出来る。

 そうすれば、仮に敵に襲われたとしても、返り討ちにすることも――、

「……違うな」

 色々と考え始めたところで、俺は思考を止めた。

 俺が他人から攻撃を受けたからといって、俺が他人を攻撃していい理由にはならない。
 敵だからと攻撃を仕掛けてしまえば、攻撃の連鎖は止まらない。そうすれば、どんどんと生きにくい世の中に変質してしまうだろう。

 いつか誰かが断ち切らなければいけないのだ。

「甘い奴、上等だ」

 疲れた時に必要なのは糖分だ。甘いと言われても、最後まで誰かを信じ、頼られるような人間でありたい。

 しかし、現実問題、甘い人間でいるために何が出来るだろう。

 敵に追いやられて、追いやられて、辿り着いた先には安息して眠る場所さえもない。イメージ的には、まるでゲームを始めたての初期装備なのに周りはラストダンジョン級の敵に囲まれているような感覚に近い。

 こんな状態で出来ることなんて、皆無に等しいのではないか。

「本当にそうか……?」

 活路を見出すことを諦めたくなるような八方塞がりの状況下で、俺はもう一度問いかける。

 何もないからこそ自分を見つめ直す。何も飾らずに自分という有り体一つで、この世界に挑まなければならない。

 この世は所詮敵だらけ。だからこそ、逆転の発想をするんだ。

 すると、考えることさえ億劫になっていた脳に、一筋の光が差し込んだ気がした。

「……これ、か?」

 一筋の光を掴んで手繰り寄せると、どんどんと形が露わになって来る。

「これだ」

 俺がいる場所は、何もない更地なんかじゃない。
 人生は追い詰められてからが本番だ。

――⑤へ続く

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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