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[小説]Let’s PARTY,Let’s DANCE③

Let’s PARTY,Let’s DANCE①

Let’s PARTY,Let’s DANCE②

 ***

 祭りというのは参加する人が全員楽しんでこそ成功だと言えると思う。勿論それはステージに立つ側の人だけじゃなくて、観客として参加している人も巻き込んで楽しまなければいけない。

 璃星の振り付けを見た時、私は璃星の飛び抜けた才能を改めて痛感した。二階堂高校ダンス部の持ち前でもあるフォーメーションダンス、大会で披露すれば好印象を貰える技の応酬、音楽の静と動を活かしたメリハリの利いたダンス。『Re:HO』という名前で、既に多くの人の心に触れるダンスをしているだけはある。このダンスを私たちが完璧に踊ることが出来れば、確かに人々に感動を与えることが出来るだろう。

 けれど、それだけだ。

 私たちが立つステージが、純粋な実力を求められるだけの大会だったら問題はない。しかし、今回の舞台は祭りの余興。
 芸能人でもプロでも何でもない私たちが、ただ実力を誇示するための大会並みのダンスをして、お客さんたちはどう反応すればいいだろう。むしろ、お祭りなのに勝手にダンスをしていたグループがいた、という認識で終わってしまう可能性もある。

 だから、私は改めてみんなで話し合う機会を設けて、璃星が考えてくれたダンスに手を加えることにした。

 璃星の構想で良かった部分は積極的に取り入れ、演者よがりになりそうな部分は改善する。
 聞けば自然と体が動き出してしまうようなアップテンポで夏にピッタリな一曲を使って、会場全体が盛り上がるために、私たちが導き出した答え。

「璃星、ちゃんと見ててね」

 それを今、璃星の前で披露する。

 私たちの前に体育座りをしている璃星は、少しだけ頬を膨らませているも視線は全くズレていない。

 ダンスに対して真剣な姿、やっぱり璃星は璃星だ。
 ふっと唇を緩めると、私は音楽を再生した。

 そして、イントロが始まったと同時、私たちは頭上で両手を叩き始めた。陽気なリズムに合わせて拍手が鳴り響けば、気分が盛り上げられていく。祭りという状況を考えれば、本番はもっと盛り上がり、会場全体に一体感が増すはずだ。

 Aメロが始まり、私たちは自分が持っているダンスの技術を惜しみなく出していく。巧みな連携を意識したフォーメーションダンスは璃星の構想をそのまま活かしている。
 しかし、一つだけ璃星の構想と違うのは、体のどこかで周りを巻き込むようなリズムを刻み続けることだ。手を使って、足を使って、体を使う。

 サビになると、初見の人でも簡単に真似することが出来るようなダンスへと切り替わる。

 ――私、お祭りごとが好きなんだ。

 この振り付けを皆で考えた時のことを思い返す。

 そう言った時、皆は「知ってるよ」とからかうように言った。

 お祭りは不思議だ。美味しい食べ物や楽しい出し物、ワイワイと賑わう祭り囃子などによってその場にいるだけで気分が盛り上がるし、知らない人とでも少しだけ距離が近くなれるような雰囲気がある。祭りの中で一緒に盆踊りでもしたら、更に一体感を増す。

 だからこそ、

 ――子供でも大人でもお祭りの会場にいるみんなを巻き込めるような振り付けを取り入れたいんだけど、どうかな?

 そう問いかけると、満場一致で賛成してくれた。

「もっと楽しんでいこーっ!」

 今回の楽曲では、ラスサビに入る直前の間奏に盛り上がりを見せ、ラスサビに入っていく。ここで会場のボルテージを最高潮に持っていけるように、私たちは声を上げながら、体全体を弾ませて扇動することにした。

 これがもしも大会だったら、声を出すなんてあり得ないことで、璃星が振り付けしてくれたようにクオリティ重視のダンスが正解だっただろう。でも、私たちがダンスをする場所は祭りだ。

 祭りなら、皆を巻き込むような楽しいものにしたい。

 そして、ラスサビになると、ここまで何度もサビで披露した簡単なダンスをする
 十一人が一つになってダンスしていく。いや、違う。体育座りをしながらも、璃星はリズムを刻んでいる。実力主義である璃星でも、心地よいリズムが耳に響けば、体を動かしてしまいたくなるのだ。十二人全員が一つになって、一つの作品を作り上げようとしている。

 ああ、この感覚だ。この感覚を味わいたくて、私はダンスをしている。

 私がダンスを好きになった理由は、お祭りを好きになった理由と似ていると思う。

 初めて大の大人のダンスを見た幼少期、自然と私の体が動き出して楽しい気分になったのをよく憶えている。更には私だけじゃなくて、周りの友達も楽しそうに体を揺らしていたのも印象的だ。
 その時、ダンスをすれば、たとえ言葉が通じなくても同じ気持ちになれるのだと私は思った。まるでお祭りのようだ。

 だから、私は人を楽しませるダンスが出来るように、一からダンスを学んだ。そうすれば、お祭りという舞台がなくても、体一つで皆を幸せな気持ちにすることが出来るはずだ。

 私の行動は間違っていなかった。今この瞬間が何よりの証明だ。

「……」

 璃星と目が合った。

 私は璃星のようにプロになってダンスを極めることは出来ない。けれど、楽しんでダンスをすることは負けないつもりだ。

 楽しさのあまり、思わず口角が上がってしまうのが止められない。

 いつまでも続けばいいのに。
 そう願ってしまうけど、ラスサビが終わってしまえば、当然曲も終わってしまう。

 シーンと静まった練習場に、私たちの息遣いだけが響く。両腕を抱えている璃星は、何も言葉を発しない。

 一緒にリズムを取ってくれるくらいノッてくれていたと思ったけど、あれは見間違いだったのだろうか。それか、言葉に出せないくらい私たちのダンスは下手だったのだろうか。

「ねぇ、璃星! どうだった?」

 まだまだ改善の余地は残されているけれど、私たちなりに全力で作った振り付けだ。プロ並の実力を持つ璃星の意見を聞きたかった。

「ダメね。要所要所は良かったかもしれないけど、まだ曲の勢いに頼り切っている振り付けが何度かあった」
「……うっ」

 ぐうの音も出なかった。

 改めて璃星が一人で一曲分の振り付けをしたことに才能を感じる。同じ立場にならなければ、その苦労は絶対に分からない。
 同じ部活にいながらも、私たちと璃星との実力に明確な差があることを、改めて痛感してしまう。

 だけど、璃星はふっと柔らかく口角を上げると、

「あと半月あるんでしょ。皆がやりたいことは伝わったから、一緒に作り上げていこっか」

 立ち上がりながら、そう言った。

 思いがけない言葉に、私たちは気の利いた言葉を言えず「……え?」という間抜けな言葉しか漏らせなかった。

「私さ、やるなら完璧じゃないとダメなの。ここからみっちり仕上げるから覚悟してよね」

 髪を一つ結びにして、璃星は準備運動を始めた。

――④へ続く

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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