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[小説]天使に出会うには①

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 今やこの日本で当たり前になったアプリ、『EDEN』。

 EDENは『株式会社クリエート』によって二十五年前に登場すると、瞬く間に人々の間で話題になった。アカウントを知っている人同士でのコミュニケーションツールはもちろん、グルメやエンタメ、最新の流行を知るために欠かせないアプリにもなっている。
 ただし、それだけだったら、普通のSNSと変わらない。

 EDENの最大の特徴は、アプリ内の至るところで現れるマスコットキャラクターの『エンゼルくん』だ。

 このエンゼルくんは、最初はクリオネみたいに小さい姿だ。しかし、EDENがインストールされた端末の情報を吸収して、エンゼルくんは徐々に成長する。EDEN内で調べたことだけではなく、検索エンジンで検索したワード、友人知人とやり取りした言葉、遊んだアプリの経歴。それらのものの全てがエンゼルくんの成長に影響を及ぼしている。エンゼルくんは成長すると、IからA、そして、S、SS、SSSという十二段階に応じたアルファベットのランクに振り分けられるようになる。
 そして、ある程度成長したエンゼルくんは、ユーザーの問いに対して、ユーザーの個性に応じた最善策を提示してくれるようになる。ユーザーにとって、エンゼルくんはよき隣人であり、よき指導者となってくれるのだ。

 まさしく成長する機能を伴なった人工知能である。

 あまり類を見ない人工知能エンゼルくんの搭載によって、EDENは人気を博するアプリになった。しかし、EDENの人気を裏付ける秘訣は、クリエートが立ち上げた施策にある。

 クリエートが掲げた施策とは、エンゼルくんの最高級評価でもあるSSSのレベルを生み出した者に、莫大な賞金を与えるというものだった。
 けれども、そのSSSの評価が下されるのは、ごくまれだ。いや、ごくまれという表現にも語弊がある。何故なら、EDENが出回ってから今まで二十五年、一度もその評価を受けた者はいない。SSの評価までに至った者はいるも、クリエートが求める基準はSSS。

 SSからSSSに至るまでに、どれほど多くの基準が設けられているかは誰にも分からない。運営のみぞ知る情報なのだが、二十五年経過しても一向にリークされる様子はなかった。

 このEDEN、ひいてはエンゼルくんが不思議なところは、仮にアンインストールの後にEDENを再インストールしたとしても、エンゼルくんは同じ姿で現れるということだ。
 つまり、不正は出来ない。そもそも不正をするような心の持ち主であるのなら、間違いなくSSSのエンゼルくんは生まれないだろう。

 だから、その人となりを判断するには、EDENのエンゼルくんを確認するのが一番手っ取り早いと言われるほどである。

 今この国では、エンゼルくんの影響は至るところに及んでいる。たとえば――。

「あー、立石彪雅さんのエンゼルくんはBかぁ」

 面接官の声音には、明らかな落胆が混ざっていた。頬が引き攣りそうになるが、俺はなんとか堪えて、笑みを浮かべ続ける。
 俺がどれだけこの会社に入社することに希望を注いで生きて来たことか。

「まだまだ伸び代があります。なので、どうか――」
「ごめん、我々が欲しいのは即戦力のA以上なんだ。今回は縁がなかったということで」

 取り付く島もなく、面接官は席を立つ。

 エンゼルくんの評価は絶対的だ。
 それゆえ、EDENは現代社会に欠かせない。誰にとって必要不可欠で身近な存在と共に、時に門となって人々の道を阻むのだ。

――②へ続く

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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