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[小説]走った先は①

 ***

「今年もダメ、か」

 ゴールラインを割った瞬間に吐き出された息が、全力疾走の果てに出た吐息なのか、それとも落胆から出た溜め息なのか、判断が出来なかった。

 多分両方とも正解だ。どちらの比率が大きいかは、自分自身が一番分かっている。

 段原中学校の陸上競技部に所属する俺は、全国大会に出場するために都内の記録会に参加していた。年に数回行なわれる指定大会で参加標準記録を超えなければ、順位が良かったとしても全国大会に進むことは叶わない。
 ゴールを割った時に垣間見た数字は、標準記録より二秒遅かった。

 たった二秒超えられなかっただけで、俺は全国大会に進むことが出来なかった。

「……悔しいな」

 ままならない現実に、思わず口から悪態が出て来る。

 去年の記録会では、成長痛という人間として仕方のないところではあるものの、自分の体のコンディションを維持することが出来ず芳しくない成績を叩き出してしまった。

 その悔しさをバネに、毎日毎日走り込みを続けて、体力や走力を磨き続けた。そのおかげで、一年前よりも圧倒的に強い自分へと成長させることが出来た。

 なのに、そんな努力も甲斐なく、結果だけを見てしまえば去年と変わらない予選敗退だ。
 練習通りにやれば一樹なら記録なんて大幅に超えられるさ、と顧問に言われ、イッキなら余裕だ、と周りからも言われていたのにも関わらず、俺はその期待に応えることが出来なかったのだ。

「……次、も」

 全国への切符を掴むチャンスも、あと一年しかない。

 二年連続でダメだったのだから、来年も上手くいかないのではないかという不安が胸中をよぎる。

 それに、また一年を繰り返したところで、この一年間以上の伸び代があるとは到底思えなかった。

 事あるごとに失敗を重ねていく内に、何をしても上手くいかないという得も言えぬ感覚が、気付けば常に俺の周りを纏わりつくようになっていた。
 どうしても俺には、俺よりも前を走っていた彼らのようになれるイメージが湧かなかった。

「いや」

 マイナス思考を振り払うように思い切り首を横に振った。

 この一年間、長身を活かせるような走り方に変えたおかげで、俺のタイムは十数秒も縮まった。本来の実力を発揮していたら、標準記録を突破することは出来たはずだ。
 試合の空気に当てられて、普段のように力を出すことが出来なかっただけだ。

 だから、次も、じゃなくて。

「次こそは、絶対に……っ」

 来年こそ全国大会に進む決心を刻んだ。

 それに、長距離走に全力で挑めるのもあと一年しかない。
 どんなことがあっても言い訳にならないように、走って走って準備することしか残されていないのだ。

――②へ続く

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この記事を書いた人

 東京生まれ 八王子育ち
 小説を書くのも読むのも大好きな、アラサー系男子。聖書を学ぶようになったキッカケも、「聖書ってなんかカッコいい」と思ったくらい単純で純粋です。いつまでも少年のような心を持ち続けたいと思っています。

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